おはよーございまーす!

自転車通勤、


朝日を背に出勤、日が長くなった近頃は、夕日を背に家路を辿る。


もう、2ヶ月近くになるのか、
途上、鈍く光る銀のアルミ柵で囲われた建設現場。出入り口に立ち、工事車両が出入りする確認誘導にあたるおじさんひとり。
ボクもおじさんですけれど、ボクよりもおじさんなおじさんひとり。ヘルメット着用、長袖の保安服に安全靴、右手に誘導灯。


朝、ボクの通る時間帯、そこそこ早い7時半、すでに仕事にかかっている。
夕刻、定刻で上がった時は、おじさん、まだ同じ場所に立ち、仕事中。


当初、黙礼だけだったのが、最近は「おはようございます」と、声を出しての挨拶を交わす。
帰りは、ボクが雇い主でもなし、同じ現場の者でもなし、
「ご苦労様です」も、「お疲れさまです」も、ましてや「ありがとうございます」も変なので、黙礼。


しているのですが、
今日の帰り、黙礼したすれ違いざま、おじさん、


「いつも、ありがとうございまーす」と、ボクに言いやった。
ただ、朝夕に挨拶交わすだけのボクに、「ありがとうございます」と言いやった。


毎日、人のよさげなおじさんに挨拶しながら、おじさんのこれまでの人生や生活、勝手に想像することはあったけれど、
とりたてて「ありがとう」を言われるようなことをしていないボクに、「ありがとう」と言いやった。


毎朝、同じ道筋、同じ辺りですれ違う人々、移動しているボクに限っても、10名以上。
少なく見積もっても50人、下手をすると100をくだらない人々が、毎朝、おじさんの立つ歩道の前を、
ボクと同じように、ほぼ同じ時間に、自転車か、徒歩で通過している。


でも、きっと、おじさんと目を合わせて、
「おはようございまーす!」を言い合う者は、ボクを含めて、ごくごく少数に過ぎないのだろう。
場合によっては、ボクだけなのかも知れないな、と思った。


おじさんはおじさんで毎朝、
若者崩れのような、白いものが交じった長髪の、デスクワーカーのような、肉体労働者のような、得体の知れぬボクのことを、
これからどこに行って、何をしているのか、


夕刻には、どこまで、誰の待つ家まで帰っていくのか、
勝手な想像をしてるのだろう。


工事が終わるまで、朝から晩まで、おじさんはあの場所に立っている。
あの場所を通るたび、ボクはおじさんに挨拶する。


それだけの関係だけれど、無関係ではない関係がそこにはあって、


挨拶っていいぜ。うん。