悲しくてやりきれない

そばを通ると、ニャニャと呼びかけ、脚にスリスリしてくる人懐こいヤツだった。


まるまるしているし、最初は、飼い猫さんなのかと思った。


でも、どうやら野良さんみたいだった。いつからそこにいるのか、結構な年齢のようだった。


元々、誰かに飼われていたのかも知れなかった。


相方が、ノミダニ駆除の薬を垂らしてやると、おとなしくされるがままにしていた。


寒くなる中、連れ帰ろうと思っていた。実際、連れ帰りかけたことも何度かあったのだけれど、


キャリーに入れようとするとさすがに激しく抵抗するので躊躇しつつ、


そのうちに……、近々……、と思っていた。


通りの反対側で見かけた相方が、「危ないから向こうに渡っちゃダメだよ」と諭すように言っていた。


賢いヤツだから、大丈夫だろうとたかをくくっていた。


日暮れて、いつも様子を見に行く相方が、いつもの場所を通った時、姿は見えぬが、声だけが聞こえたという。


数分後の帰り道、車道の真ん中で倒れているのを見つけた。


相方が歩道まで抱え戻した時、もう息をしていなかった。


相方から連絡を受けて駆け付けた。体はまだ温かかった。目立った外傷もなかった。気絶しているだけなんじゃないかとさえ思った。


でも、もう息をしていなかった。


そのままにしておけないので、段ボール箱に入れた。公園に埋めてやろうと思ったが、埋められそうな場所はなかなかない。


そのままウチに連れ帰った。おおきいヤツだったのに、箱の中でちいさくまるまっていた。


眠っているように見えた。今にも目覚めそうに思えた。


こうなる前に連れ帰ってやればよかったな。やれたのにな。と、思った。


あの日あの時、いやがるのを無理矢理にでも連れ帰ってやればよかったな。と、思った。


30分でいいから、時間が戻って欲しいと思った。


悲しくてやりきれない。