地球の歩き方
同業者には、同業者に限ったことではないのかも知れないが、
まとまった休みがあると、旅行に出かけたがる人が多いのは事実。
「この休みは、どこへ行くの?」というやり取りが多いのもまた事実。
教員やコームインが長期に渡っていそいそとどこかへ遊びに出かけているその様子が、
世間様の羨望や嫉妬の主たる原因になっているように思うのだが、
それは、あながち外れていないように思うのだが、
そこはそれ、休みがあって出かけたいなら出かければよいと思う。
そして、この業界には、今さらそんなものが必要なのか?
と、正直の所思わないでもない、「修学旅行」というのがある。
これについてもそこはそれ、生徒らが楽しみにしているのだから「なし」にはならない。
ま、行きたいなら行けばよい。
そんな「修学旅行」、我が勤務校では、入学希望者に向けた学校説明会でも、
先の管理職が、「修学旅行」は海外、当面はシンガポール。ということを熱心に宣伝していた。
そんなことが、高校の「売り」になり、中学生やその保護者にとっての「魅力」になるとオレには思えないのだが、
「売り」になるところでは「売り」になるし、「魅力」に思う人々にとっては「魅力」なんだろう。
で、今年度と次年度、2年生はシンガポールに出かけることに決定しているのだが、
神戸女学院大学名誉教授にして、思想家、武道家の内田樹(うちだたつる)氏が、
彼自身の言葉を借りると、「朝稽古のあと、新聞読みながら朝ご飯食べていたら、シンガポールがどうたらという記事があったので、読んでいるうちにちょっと「むかっ」と来て、ブログを更新しました」と、その、シンガポールについて書いていた。
「内田樹の研究室」
当人のブログを読んで頂ければわかるのだが、面倒だという方に、手前勝手に要約すると、
・シンガポールは今、ある種の人々(超富裕層)からは「世界で最も成功した国」とみなされている。
・このところ、日本人にも「シンガポールに学べ」という人が多い。
・日本のメディアは、シンガポールの経済的な成功、英語教育のすばらしさ、激烈な成果主義・実力主義、都市の清潔さについて報告する。
・その一方、日本のメディアは、シンガポールがどういう政治体制の国であるかについては情報の開示を惜しむ傾向にある。
・ゆえに、平均的日本人はほとんどシンガポールの「実情」を知らない。
・シンガポールの「唯一最高の国家目標」は「経済発展」。平たく言えば「金儲け」である。
・シンガポールにおいて、政治過程や文化活動などはすべて「経済発展」の手段とみなされている。
・政治権力や国富は、独占的に特定の一族、人々が私有している。
・外交も内政も、社会福祉や医療や教育も、政府の方針に反対する勢力がほとんど存在しないことで、経済活動は効率的に進められる。
・「シンガポールに学ぶ」ということは、「経済の発展」のためには、民主主義や基本的人権をどのように制限制約するかを学ぶということ。
・「経済発展」を望む多くの日本人は、「金がなければ、人権なんかあっても仕方がない」「金がなければ、平和であっても仕方がない」と思い始めている。
・憲法改定、国民主権の制限、基本的人権の制約、メディアの抑え込み、労働組合つぶしへの動きは、シンガポールに学んで「経済発展」を望んでいる「超富裕層」の意志と無関係ではない。
思えば、我が職場の以前の管理職、
「シンガポールには、グローバル化の流れの中で、国家有意の人材となるべき高校生が見ておくべきものがある」
「経済的成功、英語教育の素晴らしさを肌身で体験して来て欲しい。そして何より、治安が良く、都市が清潔である」
と、シンガポールへの修学旅行を熱心にプッシュしておりました。
「シンガポールに学べ」という、このところ多くなっている日本人のひとりだったわけ。
そもそも、「国家有意の人材」って何なんなのか、オレにはよくわからんのですが……。
基本的人権が保障されず、政府に対する批判勢力が組織的に排除されるけれど、経済的に豊かで表向きには華やかな「明るい北朝鮮」
が、我が校の修学旅行先。かかる費用は約15万円。
海外に一歩も足を踏み出したことのないオレ、
「グローバル化の流れ」から完全に遅れを取っておりますし、「国家有意の人材」でもありゃしませんのですが、
来年は付き添いせにゃならん運びになっておるわけで、
人生最初の海外が「明るい北朝鮮」。何を学びに行けばよろしいのでございましょうや?
ま、生徒たちは、そんな管理職の思惑とは関係なく、ほぼ100%観光に行くわけで、
シンガポールが、香港であろうがマカオであろうが、ハワイであろうがグアムであろうが、
どこに行こうが関係ないっちゃ、関係ないんですけど……。