豪華二本立て

四人で観光地に出かけた。旅館に泊まる。
ひと部屋だと思っていたら二人ずつ分宿。小さい部屋だが、ま、仕方ないか。
机にあった、観光パンフ手に取る。オレは釣りはしない。さしたるめぼしい場所もない。
残る二人の部屋を覗くと、相部屋を頼まれたとかで、見知らぬ顔が二人いる。
それはあんまりだろう、それなら二人は狭くともこちらの部屋に来ればよい。オレが言ってやる。
と、自分の部屋に戻ると、仲居が現れ「申し訳ないが相部屋をお願いします」と言う。
後ろにいる、人の良さそうな若者四人、居心地悪そうに入ってくる。
四人どうやらバンドマン、そういえば、オレたちもツアーでこの街に来たのだったと思い出す。
それにしてもこの狭さに六人はない。布団は四人分敷くのが精一杯と思われる。
やはり文句を言ってやろうと思っているところに、夕食が運び込まれてくる。
数人いる仲居は艶っぽい和服で美人揃い。だが、仲居頭と思われる女は金の短髪、左の頬に入れ墨、で剣呑。有無を言わせぬ威圧感で、四の五の言わずに食えといった風情。
運ばれてきた料理は、浅蜊の炊きこみご飯を軸に、特に美味、上等ではないが大量。食い切れぬ。
そそくさと片付けに現れた仲居、
お櫃に大量に残った炊きこみご飯見て、態度急変、態度も言葉も粗暴になる。
こんな宿にするんじゃなかった、と後悔。 絶句。


地方都市、丘の上にある灰色な住宅街を縫う坂道を歩く。
子供ら三人ばかり、道端で石蹴りや縄跳びに興じている。
足元に転がってきたゴム鞠様のもの拾い、うちひとりの女の子に投げやる。下手から緩く投げたのだが、少女取り損ね、胸のあたりに当たる。怒った顔の少女、小学校2、3年くらいか。レモン色のワンピースに黒い靴。肩胛骨と乳首の間あたりまで伸ばし、目のあたりで切り揃えられた真っ直ぐで豊かな黒髪。目鼻立ちの整った美人顔。だが、どこか狂気を孕んで鬼気迫る。
少女、なにやら恨みがましいこと言いながらオレに近づいてくる。恐ろしくなったオレ、早足で立ち去るが、どこまでも追って来る。
耳を澄ますと、少女「ずーっと待っていたのよ」と呟いている。昼間の住宅街なのに人影がない。
坂を下る足を早める。
庭先で洗濯物を干す中年の婦人がいたが、何をどう言って助けを求めればよいのかわからない。寧ろ、怪しまれるのはオレの方かも知れぬと思って素通りする。
そんなオレは何処へ行くのだったか?そうだ、姉のところに行くのだった。と、思い出す。
オレは、姉の、ところに、下宿、するの、だった。確か、大学に、入学して。
と、断片的な記憶辿る。
姉の家は、確か、このあたり。姉は、結婚して、住んでいるのが、このあたり。相手は、確か、再婚。
追ってくる少女の気配感じつつ、決して振り返らず、姉の家、探す。
そうだ、確か、ここが、姉の家。チャイム急いで鳴らして、返答を待たず鍵のかかっていないドア開く。
足を踏み入れたリビングのテーブルに、姉と、オレを追っていたはずの少女が座り、こちらを見る。
「いらっしゃい。待っていたのよ」と声を合わせる。
あぁそうだったと思い出す。姉は子のいる男と一緒になり、その子はオレと一緒になるのだった。
オレは、この少女と、この悪魔のように美しい少女と、一緒になるのだった。
少女の笑顔、美しく、そして、どこまでも、邪悪。

2本立て終了後、目覚めて、体の下になっていた右腕、痺れて朦朧……。