腕時計哀話

映画"Easy Rider"のふたりよろしく、


いつの頃からか、ポイッと投げ捨て、「時計」というヤツを身につけなくなった。


文字通り時間に縛られてるよーな気がする腕時計はずいぶん前から嫌いで、以前は懐中時計持ってたんだが、携帯電話持つようになってからはそれも持たなくなってしもうた。


仕事中にプライベートなメールをチェックしてると思われたりするといけないから、デキるビジネスマンは、時間見るのにイチイチ携帯電話取り出したりせず、腕時計は装着しておくべきものである。と、新入社員の心得みたいな新聞記事に書いてあった。言われてみればそうかも知れん。ふ〜ん……。


どうせ持つならなのだかどーだか、世間にはロレックスやらカルティエやらのン十万円もする腕時計これ見よがしにキンキラキンと装着している人や、それっぽい偽物で満足している人や、G-Shock何十個も集めて取っ替え引っ替えしている人がいるけれど、オレにはいずれの趣味もない。


オレの仕事、タイムテーブルに沿って動いているから、時計っての必須っちゃあ必須なのだが、授業時間なんてのはほとんど体が覚えているし、教室は元より至るところに時計はある上に、ご丁寧にチャイムまで鳴るから、いらないっちゃあいらないのであって、時計持たないことで普段日常、難儀したことはない。


のだが、明日ウチの職場、入試なのでして、
タイムテーブルに沿って、試験監督やらなにやらかにやらやるのだが、教室にある時計、ずれたり狂ったりしてると具合が悪いっつーので、すべて覆いをかけて隠しちゃうのであります。
ま、時計のせいで不具合不公平出ると困るから仕方ない。チャイムが鳴るからよさそーなもんだが、監督者は己の肉声で的確に「あと何分ですぜ」などアナウンスしてやらんければならんシステムになっており、となると「時計」が要りようになって来る。朝には、全教職員揃って「せーの」で、秒針まで時報に合わせるという儀式まで執り行われる。


その時に、「アタクシ携帯電話しか持っておりません」。では、具合が悪ぃ。
考査監督中に、携帯取り出して時間確認するわけには参らん。通常モードで着メロ鳴るのは言うに及ばず、マナーモードでぶんぶん唸られても困るから、いきおい電源切ることになる。電源切るなら試験場に持参する必要もない。


てなわけで、時計が必要と相成った。銀の懐中時計持つには持っているんだが、いかんせん手巻きじゃないのを放置して長いから電池が切れている。



仕方ないので、カミさんに頼んで買ってきてもらった。


かつて、オヤジの兄、早い話が伯父ですが、彼が働き出して最初に買った腕時計、初任給ヒト月分では買えなかった。買った時、とても嬉しかったと言うておった。


今じゃ時計嫌いのこのオレも、中学生になって最初にセイコーの自動巻の腕時計買ってもらった時は、かなり嬉しかった覚えがある。


そう遠くない昔、この国には、腕時計に夢とロマンがあった時代があったのだった。


現在も、ン十万の高級ブランド腕時計に夢とロマンを抱く人もいるとはいえ、


正確に時を刻む腕時計、¥980円也……。