藤原石油

通勤途上、


小さなセミセルフのガソリンスタンドがある。
痩身で白い長髪で髭をたくわえた60絡みのおじさんがひとりでやっている。


セミセルフというの、クルマを誘導し給油のサービスはするけれど、フロントガラスを拭いたり、灰皿の掃除といったサービスは致しません。
ということのようで、セルフのスタンドに比べると、安いわけではない。
レギュラーと、ハイオクと、ディーゼル、中空からぶら下がっている給油レバーはそれぞれひとつずつ。
日々変わる料金は、電光掲示されているわけでなく、パネルを差し替えて手動で差し替えているけれど、見えやすいとはとても言えない場所に掲げられている。


この店の前で信号待ちすること多いので、観察していると、個人客もいるものの、給油代金を経費で落とせる営業車が多く利用しているように思われる。


そんな、ちいさくて薄汚れたガソリンスタンド、夕刻になると、
都会では少なくなったといわれているスズメたちが、どこでにこんなに暮らしているんだろうというぐらい群れ集う。


おじさん、日々、スズメたちに餌を与えているのである。
おじさん、日々、目を細めて優しい眼差しで餌をついばむスズメたちを眺めている。


朝夕、その前を、ボクは通り過ぎて6年になる。


昨年、ほとんど毎日営業しているそのスタンドが開いてない時があった。
「入院のためしばらく休みます」の貼り紙が目に入った。


貼り紙の言葉通り、しばらくして、スタンドにはまたおじさんの姿があった。


今年に入ってまた、「入院のためしばらく休みます」の貼り紙。


その貼り紙が、先日、


「健康状態により、閉店致します。長い間のご愛顧ありがとうございました」に変わっていた。


朝夕見ていたおじさんの姿はもうそこにはない。


でも、


夕刻、スズメたちは、もう営業していないガソリンスタンドに、群れ集っている。


見ると、どうやら餌が撒かれている。


おじさんなのかな? おじさんだといいな。


と思う、帰り道。