第三の新人

高校1年の初夏


「国語」の副読本だった「国語便覧」に載っている明治以降の主要作家の作品、文庫で手に入るものをリストアップして、貯め込んでいた小遣い3万はたいて、一気に100冊まとめ買いした。


段ボールに詰め込んだ文庫本、100冊抱えて電車に乗るの、重かったけれど、なんだかうれしかった。


夏休み一日一冊のペースで読み進んで、高校2年の途中で100冊すべて読み終わったから、


それからは、好みの作家の小説を次から次へと読んでいた。


ひと月の小遣い5000円は、月に1枚のレコード2500円と文庫本に消え、テレビで放送される昔の映画を見ているだけの十代だった。


学校の授業聞いてる以外は、なぁんにも勉強しない十代だった。


その結果、今のような仕事することになろうとは夢にも思っていなかった。


小説は濫読だったが、


谷崎潤一郎安部公房吉行淳之介大江健三郎筒井康隆あたりが好みだった。


とりわけ、吉行さんの文章が好きだった。


作風も傾向もまったく異なるのではあるけれど、第3次戦後派ということで、


同世代の作家らを、その筋では「第三の新人」と呼んでいた。


小島信夫遠藤周作庄野潤三島尾敏雄すでに亡く、


安岡章太郎氏が身罷られた。


残ったのは、阿川弘之三浦朱門曾野綾子あたり……。


憎まれっ子世にはばかる? 悪い奴ほどよく眠る?(爆)


戦中を、戦後を、オレも知っちゃぁいないけど、戦中や戦後のことは、小説が、映画が、教えてくれた。


戦中や戦後のことを、知っている人、語ってくれる人、どんどんいなくなる。


彼らの語った言葉を読もうとする者も、どんどんいなくなる。


そんな、時代の曲がり角……。