黒板の話
前任校にはクラスというものがなかった。
授業は講座単位で受講しているメンバーが異なっていた。
そういう制度上、教員は授業が終わったら、自身が板書した黒板を自身で消してから退室することになっていた。
教員も様々で、おざなりに消すだけの者もいたし、チョークまみれになった黒板消しの後始末をも怠らない者もいた。
今の職場、クラスがあって、授業の後の黒板消しは生徒の仕事になっている。
学校というところは、周知の通り、基本、それが当たり前になっている。
中には、黒板消しのエキスパート(笑)が存在しているクラスもあるけれど、
黒板を消す仕事は大抵、「日直」という名の当番の仕事になっている。
オレは出来る限りにおいて、始業チャイムが鳴り響く前に、授業の教室に入るようにしている。
始業チャイムが鳴ってからよろよろ教室に出かけていた頃もなかったわけではないけれど、前任校での習慣もさることながら、休み時間の生徒らの様子を眺め、声を掛け、ちょっかいを出すことの中に、この仕事の要所があると思うようになったからである。
のだが、このところ、
始業前の教室で、オレ自身が先の授業で残された黒板を自らの手で消すことが増えている。
中にはオレが黒板を消し始めたのを見て、慌てて消しに来る者もいないではない。
オレが、ワタシが、消しますから。と、その日、それが自身に課せられた仕事ではないにも関わらず、消しに来る者もいないではない。
そういう者がいることは幸いなのだが、
でも、それは少数で、
己がそれをやることになっている者が、次にその教室で授業をするオレが黒板消しをしているのを知ってか知らずか、
やってくれるならやらせておけばよい。と、思っているのだかどうだか、
知らぬ存ぜぬを決め込んでいる者も多い。
今の職場、常識を逸脱せぬ「よい子」が多いのだけれど、
言われたことしかやらない。言われたこともできない。命じられなければやらない。
そんな者も、また多い。
オレはそういう細かいことを指示指図することを好まぬニンゲンであるから、
いちいち指示指図しないのだけれど、
誰が、どういうヤツなのかは、しっかり観察しております。
そういう者のことを、ダメなヤツだなぁ。と、心の底で嘆いております。
そして、
そういう者をダメでないヤツにしてやることもまた、オレの仕事なのだろうとは思うのだけれど、
ニンゲンには、
教えられなくてもいろんなことがわかる者と、
教えられなければわからない者と、
教えられてもわからない者があって、
教えられなければわからない者や、教えられてもわからない者は、
指示すれば動くし、暴力に訴えれば、その恐怖から逃れるために動くのだろうけれど、
言われて、殴られて、そのニンゲンの本質が変わるとは思わない。
気が付く者は気が付くし、気が付かないものはあらゆることに気が付かない。
にしても、
黒板って、"blackboad"の直訳なのだそうですが、昔は文字通り黒っぽかったそうで、
初っ端から緑だったら、黒板とは言わなかったのかもしらん。
今の職場、これでもかというくらいに、色とりどりのチョークが用意されているのですけれど、
緑の背景に赤系のチョークを使うと、見づらい者がひとクラスに数人はいるであろうこと知っていますので、
チョークは、白と黄色しか使わないようにしております。
それもまた、
誰かに教えられたわけではなく、自ら気付いたこと。
気付かぬ者は気付かない。
また、教えられても、頓着しないヒトもいて、
生徒も教員も、ニンゲンであることに変わりなし……。