じっけん
まだ保育園に行く前だったから、
みっつかよっつぐらいだったと思う。
見よう見まねで、目の前に置いてあったマッチ擦って火を点けたら、
見事点火して、それを眺めてたら、持っている指先まで火の手が及び、
あっちっちっちのちっちっち……。
で、慌ててゴミ箱、ちゅか、色とりどりのビニール紐を撚り合わせて拵えたよーな屑籠に投げ捨てたら、
中にあった紙屑に燃え移るわ、屑籠ちゅるちゅる溶け出すわ、で、
ぼやぼやぼやーっと、火が立ち上りかけ、火の付け方は見よう見まねで知っていても、火の消し方は知らなかったボクちゃんが、
あわあわあわあわあわわのわのわのわ……。
となっているところに、洗濯物干していたかーちゃん戻ってきて、事なきを得た。
ということがあったこと覚えている。
その時、無事に火を消し止めたかーちゃんが、茫然とするボクちゃんに投げかけた、
「なんでこんなことしたん?」という問いかけに、
「じっけん」
と、答えたこともまた、今や昨日の夜何を食ったのかも忘れるようなボンクラ頭なのに、昨日のことのように覚えている。
それは、
燃え上がる火の恐ろしかったこともさることながら、
「じっけんなんて言うんやでこの子。どこでじっけんなんてコトバ覚えたんやろか?」と、
仕事から戻ってきたとーちゃんに、か−ちゃんが「じっけん」というコトバを使った息子を大層面白がって喋っていたからであるのだが、
下手をすると、かーちゃんが戻ってくるの遅かったら、遠くに出かけている時だったら、お家全焼。今これを書いているオッサンになったボクちゃんも、この世に存在していなかったのかもしれんのだが、
「じっけん」
のおかげで、その時、きつく叱られたという記憶はない。
そーゆー経験の持ち主であるから、
お子ちゃまの目に触れるところにマッチやライターを放置するのが、極めて危険であることは重々承知致しております。
のですけんども、
昨今の百円ライター、もはや百円より高くなっているという噂もあるのですけんども、
点火しづらいことおびただしい。
側面を押し込んでから押し込まないとダメなヤツ。
一度、レバーを上方に押し上げてからでないと押し込めなくなっているヤツ。
お子ちゃまの指の力では押し込めぬよう、大のオトナがこなくそーっと力ずくで押し込まないとダメなヤツ。
風の吹く屋外で、ちょっと一服致しましょうかいねぇ……。
と、思った時に、なかなか点火しやがらない、しくさらない。
自転車こぎながら、ふふんふんと鼻歌交じりに点火するのは、ほぼインポッシブル。
世間は、社会は、煙草呑みをどこまで迫害すれば気が済むのか。
そもそも、
お子ちゃまが「じっけん」できないよう、親が心配りしないからこーゆーことになるわけで、
責任の所在は、元をただせば、ボクちゃんの親にあるのかも知れないが、
ストーンズのベロベロが刻印されたジッポは、蝶番の具合がよろしくないし、
スタジオでもらったターボガスライターも調子悪ぃし、
一日に4、5本しか吸わないオレのために、
ササッと強力に点火するライターを、ボクちゃんにくらちゃい。
と、サンタさんに頼んで靴下ぶら下げるのを忘れちまった。
あぼ〜ん。