What are you doing?

特に親しかったというわけではないが、そして、会いたいというわけでもないが、
相手によっては、二度と会いたくないのだが、


今、どうしてんだろな?と、想い出すことのある人、何人かいる。


いるでしょ、そーゆー人? そんな中のひとりの話。


学生の時、オレの所属した学部、ただでさえ人数少なかったが、所属した学科がこれまた恐ろしく人数少ないところで、同期はオレを含めて僅かに3人。


にもかかわらず、各学年、必ずひとりは精神に異常を来すといわれた恐るべき学科。
実際、いつも誰かが病んでいた。イマドキの連中が軽々しく用いる「病んでいる」ではなく、
自律神経失調症は言うに及ばず、分裂病とか偏執病とか……。


で、オレの学年、男ふたりと女ひとり。珍しく全員無事だと思われた。


のだが、卒業近くになって、オレとは別のもうひとりの男が「病んだ」、というか「壊れた」。
彼が「病んだ」状態を目の当たりにしたの一度だけだったが、


「ヤバイな、これは」と思った。


教員免許取得のため、教育実習に行った際、指導教員といろいろあって全うできなかったと聞いていたが、すでにその時から予兆はあったのだろう。
その後、一般企業への就職模索していたが思うに任せず、仮内定を取り付けた(と彼は言う)大企業に内定を取り消されたのをきっかけに一気にバランスが崩れたらしい。
内定取り消しになったのは、教授が当該企業にあいつを取るなと吹き込んだからに違いないと、あちこちで恨み言を言い募っていた。他者に対する強い猜疑心から、体系だった妄想を構築し、攻撃性を剥き出しにしていた。
明らかに偏執病の様相を呈していた。

それから、顔を合わせることもなく、人づてに某住宅メーカーへの就職が決まったらしいと聞いた。
就職が決まって、心身も落ち着いたらしいよと聞いた。


卒業後、数年して彼から「結婚通知」が届いた。
東京下町の長屋の前で写真に収まる、あまり似合っているとはいいがたいシルバーグレーなスリーピースのスーツ姿で微笑む彼に並んで立っているのは、明るく微笑むかわいい女性であった。
貧乏くさい長屋で撮った記念写真を「結婚通知」の写真にしていることに若干の戸惑いはあったが、そういうところのある男だからなと思った。


更に数年後、年賀状のやりとりだけがあった彼から「欠礼ハガキ」が届いた。
そこには、「妻死去のため新年のご挨拶を遠慮させて頂きます」とあった。


彼の不運不幸を思った。


翌年、彼の元の住所に出した賀状は、宛先不明で戻って来た。


その後、彼がどこで何をしているか、オレは知らない。


S、キミは今、どこで何してる?


オレは、こんな風に生きてるぞ。